11月5日(火)には市議会議員団(志政会)の皆様が、6日(水)には市長様が「チーム担任制」の視察のために来校していただきました。その際に、校長から説明したことのうち、抜粋してお知らせします。
1 問題の所在
子どもたちの「いい顔」を増やすために「チーム担任制」を検討しようと思ったのには、いくつかの理由があります。そのことを「問題の所在」として、4つにまとめました。
まず1つ目は、「リスクに強い学校」にしたいとの思いです。現在の学校教育におけるリスク要因の一つとして、様々な課題を抱える子どもや保護者への対応を挙げることができます。授業が何となく成立しづらいといった程度から学級崩壊など重いケースまであるでしょう。本校も、いつ何時、そのような状況に陥るとも限りません。
したがって、リスクマネジメントの一環として、そうならない仕組みを平常時から整えておく必要があると考えたのです。
2つめの問題の所在は「学級担任制の限界」を感じているということです。
現在も不登校やいじめ、問題行動などが起こると、生徒指導主任を中心にケース会議を行い、当該保護者への対応は担任だけでなく教頭や教務主任等も加わり、まさに組織で対応しています。いわばそういったことは事後対応の一環でしかありません。
学級担任はケース会議にかけるまでに、一人きりでその子どものことを考え試行錯誤しているはずです。「いい考えが浮かばない」「何をやってもうまくいかない」と悩みぬいていることでしょう。学級担任でなければ当該児童の深い部分が見えないし当事者になれない、単学級だから結局授業づくりも一人で考えるしかないというのは、やはり危険をはらんだ脆弱な組織と言わざるを得ません。担任一人で悩む時間をできるだけ少なくし、問題が限りなく小さなうちから複数の教員でどんな手を打てるかを検討できればリスク軽減につながるのではないかと考えました。
3つ目の問題の所在として「新鮮な気持ちで学習・生活をさせたい」という思いです。
本校は、ここ数年の中で、児童数減少のため、2学級から1学級になった学年が複数あり、そういった学年の保護者からも生活面で「トラブルが多くなった」、学習面で「授業中、クラスの落ち着きがないように感じる」などの不安の声があがることがありました。
30名を超える子どもたちと1人の先生が「教室」という狭い空間で一日を過ごすとどうしても空気(雰囲気)が澱んでくることもあります。そこで、学級の中に人の流れを作ることで、新鮮な気持ちで学習・生活ができるのではないかと考えました。
4つ目の問題の所在として、学校評価アンケートでの保護者の意見を挙げることができます。子ども自身が学習内容や学習方法を考えて進んで学習に取り組む姿に課題があると感じているようです。
さらに、自由記述欄には「確実に理解できていないことが多々見受けられる」と不安を抱く方もいて、「友達や先生と意見を伝えあう学習スタイル」「理解度別の学習や少人数の行動の機会」を増やしてほしいとの思いも複数の保護者が抱いていることが分かりました。
2 実践の中で共通理解を図ったこと
システムを実際に運用するのは教員一人ひとりであり、最終的には教員の意識がチーム担任制の成否に大きくかかわることは言うまでもありません。そこで、次の3つのことについて全職員で共通理解を図ることとしました。
1つ目に「隣の学級」の意識を捨てるということです。
これまで学級担任制による教育実践を積み重ねた小学校教員にとって「隣の学級」での指導方法に対して簡単に口出しできないとの思いも働くものです。ついては「隣の学級」との意識を捨て、早い段階から子どもの見方や指導・支援方法を話し合える職員風土の醸成をみんなでつくっていくことが大事です。
2つめは「広く・深く」の情報共有です。
多くの職員が子どもとかかわるだけでは「広く・浅く」の子ども理解になってしまいます。いかに職員が知り得たことを共有できるかがチーム担任制の成否のカギとなります。教員が教室を移動する際や放課後など短い時間はもとより1週間の中で1~2度は「チーム情報共有会」を放課後に設定しています。
3つめは、対等な立場で話し合うということです。
ベテラン教員に若手教員が教われば良いとかベテラン教員の指示を受けていれば良いなどの考えはチーム担任制を推進するうえで弊害となる考え方です。指導の場ではベテランも若手もなく、対等に語り合うことが重要です。
職員には、バスケットボールに例えて、次のように話したこともあります。
「学級担任制が「マンツーマンディフェンス」ならば、チーム担任制は「ゾーンディフェンス」である。誰が誰を守るかではなくて、チーム職員で協力してチーム内の子どもたちを守る」と。
3 実践の中で見えてきた成果と課題
(1)成果
成果の一つ目として、1学期末に行った学校評価アンケート結果のうち「教員の声」を紹介しておきます。
授業については、「特定の授業に特化でき、教材研究に集中できる。」「子どもたちは担任が変わることを不安に思う子もいたが、徐々に慣れ、色んな先生との関わりを楽しんでいた。」といった声がありました。
合同授業(異学年交流)では、「子供たちが少し大人になり、教師からの指導が少なくなる。」「上の学年は分かりやすく説明し、下の学年は一生懸命聞こうとすることができた。」「子ども同士、お互いの顔と名前が分かる関係ができつつあるようで嬉しい。」という声が聞かれました。
生徒指導面では「チームで対応できたことで、児童や保護者の考えを多面的に考え対応できて良かった。」「みんなで対応してくれ、1人じゃない安心感があった。」という声がありました。
2つ目の成果として、子ども同士のトラブルや不登校について挙げておきます。
令和6年度は全校児童が学校に足が向いています。教科担任制(交換授業)によりいろいろな先生と授業できることを楽しみにしている、学級担任以外の先生からも休み時間や昼休みに声をかけてもらえることで安心感を得ている、学級内の狭い人間関係だけでなくいろいろな子どもと触れ合えることで楽しさを感じるなど、要因は様々あるでしょう。
さらに、子ども同士のトラブルがあった場合は、組織体制で取り組み、節目の時には管理職等を含めたケース会議を実施することとしていますが、今年度に入ってからケース会議を実施することもほとんどなくなりました。これは前述のとおり子どもたちが学校生活を楽しめており精神的な不安定さが軽減したためトラブル自体が減ったこともあるでしょう。そのことに加えて、トラブルが小さいうちにチーム職員が気づいて早期対応を行うことが可能になったことも大きいと感じています。
3つ目の成果として、「アセス」による学級全体の子どもをプロットした表を見ても一目瞭然です。ある学級の学級内分布表を紹介します。
表中オレンジの部分は「要学習支援領域」「要対人支援領域」とある通り、何らかの個別支援が必要な子どもがこの中にプロットされることになります。資料の左が1回目、右が2回目の結果ですが、支援が必要な子供が減り、学習・生活ともに満足感が高まった子供が増えています。
(2) 課題
これまで成果と捉えられることを述べてきましたので、課題も申し上げておきたいと思います。
子どもたちから「先生によって色々ルールが違うので統率してもらいたいところがある」といった学習や生活上のルールなどそろえてほしいという意見がありました。
こういった声が出ることは予め想定していたことなので昨年度末に考えうる事項については指導部会で検討したうえで学校運営をスタートさせましたが、子どもたちからはまだまだ統率できていないと感じることがあるようです。今後も検討を重ねていく必要を感じています。
2つ目の課題として、「最後は教師の意識にかかっている」ということです。
子どもの抱える課題は複雑化しており、家庭や地域といった子どもを取り巻く環境も多様化しており、学校教育が抱える課題は今後もますます難しくなることが予想されます。
そのために、これからの学校は①1人の教師だけにその課題を背負わせないシステム(環境)づくり とともに、②個々の教師が高度な専門性に裏打ちされた自由な発想と柔軟性を持ち合わせることの両輪が必要であると考えます。
チームでやるから個人は埋没しても良いなどという話はないのです。個の教師が授業で子どもと勝負する、学校生活全般を通じて気になる子どもの心と会話する、そういった意識を強く持ち、プロとしてスキルを高め続ける気概を持ち続けてほしいと願っています。
4 おわりに~私たちの取組を一言で申し上げると・・
私たちの取組を一言で申し上げると、人と人の「つながり」を意識することで、子どもたちの「いい顔」をつくるということに尽きます。
先生と子どもとのつながりは教務主任が中心に教科担任制を充実してくれました。子ども同士のつながりは新たな時間割に基づいてチーム内で検討して合同授業を進めてくれています。さらには先生同士のつながりはチームリーダーが中心になり情報共有会を進めてくれています。
今後もよどみなく、緊張感をもって全職員で取り組んでいきたいと思います。